<椎茸作業・・・春子・・・>

発生してきた「春子」

<椎茸作業・・・春子・・・>

 「春子」ってこれは女性の名前ではない。原木椎茸栽培でもいろいろな栽培方法があるが、露地での収穫とハウス内での収穫方法に大別される。その露地で自然環境の下に自然発生させた椎茸は「自然子」と言われる。自然発生は主に春と秋に発生するが春先に発生するのを「春子」という。


 その春子が発生してきた。昨年の12月から2月にかけてハウス内で発生させた115号という品種を2月いっぱいでハウスでの収穫を終えて、松林のホダ場に移動して春子を発生させるのである。


 それと、持ち運びが難儀な大径木は最初から、自然子用としてホダ場に置きっ放しで春子専用に育成している。この二つの栽培方法のホダ木はいずれも115号なのであるが、それが春先に一斉に発生するのである。


 生椎茸ではこの自然子が最もおいしいといわれている。無理をせずに自然環境の中でナラの木のエキスを茸に結集するため、茸が硬く身も厚い。これこそ原木椎茸である。本物である。菌床椎茸ではこの味は味わえない。


 消費者もこのことはわかっているらしく、近くの直売所にもって行くとすぐに売り切れる。今年の自然子は昨年の3月に植菌した形成菌が対象なので本数的にはおおよそ2000本であまり多くはない。だから、量的にも多くはなく直売所から連絡があってもすぐに対応はできない。うれしい悲鳴、といったところか。



 春子の特徴は、第一に身が厚い。だから歯ごたえがあって焼いて食えば最高である。第二に香りが違う。いわゆる椎茸の香りが凝縮されている。第三に茸のカサが盛上がっているというか乾燥のためごつごつしていて、いわゆる干し椎茸のどんこのようなひび割れが発生している。このひび割れは、乾燥するから(身が凝縮する)できるのである。


 この時期の椎茸にしかこのひび割れは発生しない。薄くスライスして炭火で焼いて食えば塩とか醤油で味付けしなくても甘みが出てくる。生で食べる人もいる。酒のつまみには最高である。
 

しかし、この春子はなかなか市場には出回らない。自然のホダ場で栽培するので水分調節が難しい。雨や湿度調整ができないので日持ちに問題があるから量販店からは嫌われる。いわゆる「流通ニーズ」には沿わないのである。


 私はこの「流通ニーズ」というのが大嫌いで、自らの儲けのために消費者に一番おいしいものを提供しないという姿勢は絶対認められない。だから、直売所のみで対応している。


 今年はまた、4月が寒かったので発生が遅れた。4月の20日頃は収穫は8割方終わっているのだが、今年はその頃が最盛期であった。故に連休にも間に合って干し椎茸にまわす量がなくて、今年は干し椎茸は断念するしかないようである。