<農業問題・・・消費者から見た食と農(三)・・・>

秋田駒男岳からの展望です

<「農業運動」について> 


そして、最後に「農業運動」ということなんですけど、今の農業は農産物価格に見られるように生産者にとって「再生産」が可能な価格にはなっていない。だから、後継者もいないし、農村が荒れてくる、ということです。


昔、食管法があった時代はムシロ旗を立てて米価闘争をやりました。食管制度が無くなってから、農民運動というのはほぼ無くなっています。そして、声を上げる場も機会も無くなった・・・。何も無くなったといえば語弊があるとは思いますが、声を上げるにしても各自めいめい、現実には市場原理の下で農産物の価格形成に従わざるを得なくなってしまった。そして農村は崩壊してきた。


 消費者側から言えば、そんな状況の中で誰が自らの食の安全、安心を守ってくれるのかというと、守れない、もしくは自分で守るしかなくなっている。しかし、スーパーの店頭に並んでいる農産物は「これは危険ですよ」なんて表示はしていない。守る手段も無い・・・。


身土不二」という言葉があります。これは中国の言葉なんですが、「身と土と二つに有らず」という意味ですが、健康と食べ物は密接に関連しているということです。皆さんは玄米ご飯を食べたことはありますか。なぜ玄米ご飯が良いのかわかりますか。玄米ご飯は私も何回か挑戦したことがあるんですが、なかなか継続できませんでした。


白米になれてしまったんでしょうね。それは体の中の生態系、いわゆる体質とでもいうのでしょうか、それを変えるということなんです。人間の本来の免疫機構を活性化させるということらしいです。人間の体の中にも自然と同様に生態系があるしその中で生きています。


人体の中にも何億という微生物が存在し、それが相互に関連して影響をし合って人体を動かしているのです。その中で関連しあっているひとつの細菌がなくなれば、その周囲にさまざまな形で影響していきます。自然でも畑に作物を植えるということはその畑の生態系を変えるということなんです。


その生態系を変えればさまざまな形で歪みが出てきます。その典型的なものが、皆さん聞いたことがあると思いますが「連作障害」というものです。それを直そうとして農薬を散布すればそれによってまた、ほかの生態系に影響を与えます。


それを繰り返せば土壌はめちゃくちゃになり、自然回復力というのは無くなってしまいます。だから、「輪作」といって毎年同じ作物を同じ場所に作付けしないようにしたり、休ませるようにしています。それが地力を保持する農家の知恵として伝わっています。


再生産するためには時間とコストがかかるんです。これは科学的にも正しいことなんです。このような仕組みをちゃんと理解していないと、安易に安価な商品にばかり目が言って、結局は自分の健康に害を及ぼす可能性に目をつぶってしまうのです。


 有機農業がすべていいとはいいませんが、実際悪い影響を与えるのもあります。そういうものも含めて、自らが食べる食糧というものがどのようにして作られるのか、それを知るということは自らの健康を自らで守るという立場に立てば当然なんじゃないでしょうか。

特に化学物質の使用の有無などは、子供の健康に大きな影響を与えるといわれていますアトピーなんかはその典型なんじゃないでしょうか。小さいときから、免疫機能が化学物質の影響で機能しづらくなっているといわれています。


 そいう風な意味で有機農業などと今日もてはやされていますが、再度言いますが一番問題なのは、自らが食べる食物はどこでどんな方法で作られているかを知ることなんだと思います。何も知らないで食べて体を壊したら、これ以上馬鹿らしいことはないいんじゃないですか。


 また、そのように農産物についてその素性のわかるシステムを作るというか非常に重要なことじゃないかと、そうすれば生産者と消費者の信頼関係が構築されて、農業が発展するということじゃないのでしょうか。輸入農産物にこんなことができるでしょうか。


また、都会の人が一番考えなければならないことだと思うんですが、過密とか過疎の問題も農村の荒廃からはじまっているんです。農村で農業で食って行けたら、都会なんかには出ては行かないでしょう。若者も地元に残ると思うんです。農村で食ってゆけないから都会に出て、そこで過密化、人口の集中、都市問題が起こる。


 「環境ホルモン」という物質も何年か前に指摘されましたよね。人類にとっては非常に重要な問題なんですが、その研究に対してもすごく消極的なんです。詳しく説明する時間は無いので省略しますが、これは大企業の利害に絡んでいるからなのです。


遺伝子組み換え植物についてもです。科学的な証明がまだ完全でないのにあたかも完成したように、人間への被害というものは一年や二年の疫学調査です結論は出ません。20年も30年もかかることさえある。それなのに企業の利益を優先して、安全安心をないがしろにしてしまう。そういう姿勢がずっと続いています。私たちの孫子の代に大きく影響するっていうことなんです。


 次に今流行の「地産池消」の問題ですが、どんどん進める必要があるんです。この「地産池消」は農家のお母さんたちが始めたものなのですが、これによって、生産者と消費者が直接相対することができるようになった。消費者とのコミュニケーションが取れるようになりました。


今までは、中に流通業者が入っていて、「消費者ニーズ」よりも「流通ニーズ」が優先されるきらいがありました。生産者と消費者の距離を縮めたといえるでしょう。しかし、問題点もあることを理解して欲しい。これは田舎だからやれることであって、これは東京など都会でできますか?また、国道沿いに「直売所」がたくさんできて競争になっています。


競争になるということは価格の高い安いで判断されるということと、農産物が「商品化」してしまい、売れればいいというスタンスになってしまいます。そこには安心安全などの情報発信がなくなってしまう傾向が生じてしまいます。そうすれば最終的には「そこらのスーパーとどこが違う」となってしまうんじゃないかと危惧しています。
 

最後に現在の流通システムというのは何十年も続いています。その中で淘汰されてきたシステムですからすごい合理性があります。しかし、生産者と消費者の提携、交流がうまく言っていれば省ける機能もあります。産直のメリットというのはその提携、交流によって無駄な機能(手間隙)を省くとともに、必要な機能は相互に負担しあうことが必要です。


その話合いが必要なんです。重要なんです。それによって農作業の体験など新たな付加価値をつけることも可能なんです。それをやらないと産直は成功しないと思います。「運動」とはならないと思います。


私がいう「農業運動」とは生産者から消費者までの「消費財」の流れを相互理解の下に役割分担して、当然それは価格や規格などまた安全、安心についてもきちっとしたコミュニケーションして、再生産できる価格設定の下での農産物の流通を図るという
ことです


これは単なる農民、生産者だけの運動ではないんです。消費者も含めて今までの「農民運動」とは違う、新たな運動、「農業運動」として構築しなければならないと思っています。今の新自由主義時代の儲け至上主義のこの時代だから、食糧の安全安心がないがしろにされている時代だから取り組まなければならない運動だと考えています。
以上