<農業問題・・・講演「消費者から見た食と農」(一)・・・>

チングルマとイワカガミです

本年の2月に消費者の学習会に呼ばれて農業問題についての私の講演記録です。相当長いですがご勘弁いただいてご検討くださればと思います。

<消費者から見た食と農>


 私は秋田やまもと農協に勤めています。庄内と同様にメロンの産地です。ここの砂丘地農業研究場には何回も通っていろいろ勉強させてもらった経過があります。私は現場の農協の職員です。現場サイドの話をしてみたいと思います。


 「消費者から見た食と農」というテーマですが、なぜこのようなテーマかと言うと、生産者から消費者に対して「これ買ってください」という「売り込み」というか、お願いは通常なんですけど、消費者から私たちはこういうものを食べたいのでこういうのを作ってください、という要望はほとんど無いといってよい。


 本来は自分たちの健康の問題ですから、自分たちがこういうのを食べたいから、こういうようなものを作ってください、とならなければならないが、実際はそんなことはほとんど無い。なぜ、そうなのか、と言うことなのです。そこを切り口にして「農」について考えてみたい。


<農産物流通の実態>

 皆さん、「産直」というのをご存知ですね。しかし、その内容はなかなかわからないと思います。また、その対極として「市場流通」というのがあります。表を見てみればわかると思いますが、「市場流通」は複雑です。


 しかし、どうしてこのような複雑なのか消費者はほとんどわからないと思います。その複雑さにはそれなりの理由と「役割」があるんです。だから、何十年もその機能を発揮しながら存在しているんです。存在するというのは存在価値があるからなんです。そうでないと何十年も存在はしない。


 「産直」はというと、「市場流通」に比べればつい最近です。20〜30年前です。流行はしたけれどそれは流通のメインにならなかった。全流通の10%から15%といわれています。なぜそうなのか、ということです。


 市場流通は生産者がいて、農協等に出荷して市場へ持っていく。直接市場に持っていく人もいます。ほぼ市場に集まります。そして、買いたい人がいなければ取引は成立しないから「仲卸」といわれる人たちが、買いたいという人の要望を受けて農産物という商品と相対峙する。



 彼らが「せり」をやって価格をつける。それが価格形成機能といわれます。せりの情景はよくマスコミ等で報じられていますが、せりをやっている人、仲卸人のことについては詳しい説明は無い。


 市場はどこにでもあるから、その市場には必ず仲卸人という人たちがいる。この仲卸人は小売店、スーパーやそれに料理屋、飲み屋などから注文をとってきている。朝の5時から昼の2時ころまでが彼らの業務時間です。そして、競り落とした商品をほぼ午前中に小売店などに納品する。毎日その繰り返しです。


 なかなか表面には出てこないので、仲卸はいらないのではという声もあります。仮に仲卸はいらなくなったとしてもその機能はどこかで代替しなければなりません。価格がつきませんから。なぜ、いらないのではないかといわれるかというと、彼らがいれば手数料が取られるからです。いわゆる流通マージンの一つです。


 流通マージンは農協では、その農協で違うんですが、1,5%から2%程度です。出荷経費、生産者が出荷するためのダンボールとかパックとかですが、10%〜20%、金額にすれば100円前後になります。それから、運賃ですがメロンの場合だと東京まで運んで一箱あたり100円程度になります。市場手数料ですがこれが7%〜8%です


 これは法律で決められていまして、中央卸市場というのが7%、地方卸売市場というのが8%となっています。例外はありますけど、これをおおよその目安としてください。それに先ほどいった仲卸、ころも7〜8%となっています。


 一番高いのがなんといっても小売のマージンです。大手のスーパーで19%〜25%といわれています。これも品目によって違います。日持ちする野菜とほうれん草など数日で破棄しなければならないよう野菜とではロス率が違うので当然マージン率も違ってきます。


 また、スーパーのバックヤードを見たことがありますか、あそこではダンボールで出荷された野菜を売れやすいようにさまざまに加工しています。それにも全部手数料がかかっているのです。そういう流通マージンを合計するとおおよそ56%〜70%が流通マージンとなるのです。


 つまり、スーパーで100円の大根があったとすると、そのうち生産者に入る金額は30円程度だということです。30円しか入らないという現実なのです。最低、60円くらいは欲しいのです。採算が取れないのです。これが農産物の流通の実態です。このように流通マージンが大きいので当然それを節約しようと「中抜き」すればという発想が出てくるのです。それが、「産直」なのです。


 ところが、この「産直」もなかなかうまくいかない。産地直送という意味ですが、ネットでの取引、カタログ販売などいろいろあります。皆さんも何らかの形で利用したことはあると思います。要するに、生産者から直接消費者に商品が届くということですが、なかなかそれがうまくいかない。


 顧客管理、荷造り発送、運送(小口になればなるほどコストが高い)それに一番大変なのが、代金の回収なのです。生産者側からすれば、お金を振り込んでくださいそうすれば商品を発送します、となれば一番良いんですが、そんなうまいことはいきませんよね。


 ほとんどが、商品を発送してから代金振込みとなるのが通常です。そうすると振込みにならない場合それが全部リスクとなります。3000円の販売代金を回収するために一万円の旅費をかけて集金にはいけないでしょう。だから、そのリスクをコストとして商品の価格に転嫁せざるを得ないのです。


 これが、現実です。だから、産直はそんなに安くはなれないのです。「中抜」した分ほかにコストがかかるのです。市場流通では代金の支払いシステムが法律で定められています。競りにかけられて販売された代金は一週間以内に生産者に支払われねばならないことになっています。それを行政が監視監督しています。よくマスコミで「仕切り改ざん」などのニュースがありましたようね。あれです。


 ですから、「産直」だの「市場外流通」だのそんなに簡単なものではありません。どこかでリスクを背負わねばならなくなってきます。今は、インターネットでやれば、クレジット会社がそのリスクを背負ってくれますが、それだって手数料がかかるはずです。


 また、クレジット会社は「苦情処理」はしてくれません。品質が悪化したり、規格が違ったり、解約などこの苦情処理というのは素人ではできません。生産者がこの苦情処理をするのは大変なことです。「モンスター」といわれる「苦情専門消費者」もいるといわれています。


 このようなリスクをいかにクリアしていくかということが、産直の大きな課題なのです。生産者と消費者が交流しこれらの点を相互理解の下にクリアしていかないと産直は成功しないということになります。