<労組活動・・・M君はいま・・・>

<労組活動・・・M君はいま・・・>

 M君が農協を辞めてから、数年たった。今の仕事はすごく順調らしい。実際に順調なのだ。


結構大きい会社の「執行役員」。肩書きは「東北地区統括本部長」とある。そのM訓から、私のすぐ近くに出張でいくから一杯やろう・・・と連絡がきた。当日、別の予定が入ってはいたが、それはキャンセルした。



 M君が農協を望んで辞めたわけではない。私と同じように労組の活動家であった。天性の勘のよさと人をひきつけるリーダーとしての才能は抜群であった。友達からも同僚からも好かれた。


 労組活動でも様々な成果を上げてきた。そうなれば、当然のように経営者からにらまれる。そしてすきがあれば、彼を陥れようとする・・・・。どこの経営者も同じようなことを考える。


 彼もその落とし穴にはまってしまった。彼の今までの業務上の不備がすべてチェックされ、普通の職員ならやっていることをすべて、服務規律違反として突かれてしまった。


 彼は何度も車で2時間もかかる私のところへ相談に来た。そのたびに辞めるな、頑張れと励ました・・・・しかし、彼は辞めてしまった。私以外に相談する相手がいなかった。同僚にも、同じ労組員も・・・労組員には彼の足を引っ張るものもいた。


 「おおっ〜、元気か・・・」あった瞬間、彼の大きな声が響いた。生ビールで乾杯しながら、農協のこと、農協労組のこと、農業のことまくし立てた。

 民間会社の役員の彼、「今の農協の常勤は甘い・・・。仕事が出来た常勤になったんではなくて、選挙の票を取る才能があったから常勤になったんだ・・・」


「社員の士気というものをほとんど評価しない。士気を下げる言動はいくらでもするが、上げようとする言動はお目にかかったことはない」


「現場だ、現場だ、仕事は現場だ、現場には宝の山が埋まっている・・・」 立て板に水の如し、彼の口は止まらない。


 彼は昨年、ヘッドハンテングされて、ポストも収入も大幅にアップしたという。年収1000万円近くになったとのこと。それなのに、農協のことは忘れられないらしい・・・こころ残りがあったに違いない。


 だから、酒の勢いに任せたところもなかったわけではないが、そのむなしさが伝わってきた。


 年収は農協時代の倍になっている。世間の言う出世も立派にした。なのになんか足りないらしい。最後に私は聞いた。「もう一度農協に戻ってきたいか」と。彼は小さな声で「ウン」と・・・・。私は泣けてきた